モリオの不定期なblog

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暗部への疑心と恐怖。閉塞的な不可知の中でも繫ぎ止める存在が希望を照らす。<THE BATMAN −ザ・バットマン−/感想>

 あらゆる情報の取得と発信が容易にできるようになった代償として、情報に対する信頼が揺らぎ、情報の真偽を見極める嗅覚が個々に求められるようになった現代。所謂暴露を目にすることが増え、自分が試されているかのような場面に直面する機会が増えたと思います。そこに追い打ちをかけるかのような新型コロナウイルス感染症の蔓延。マスクを着けて表情は見えにくい、画面越しでのやりとりで意思疎通も行いにくい。

 

そんなネガティブなことに思考を巡らされる作品が『THE BATMANザ・バットマン−』です。活動を始めて2年目のバットマンブルース・ウェインが、疑心と恐怖に満ちたゴッサムシティで様々な権力者の嘘を暴いていく知能犯リドラーに迫っていく姿を描いた本作。現実との結びつきを強く感じるこの作品を観てきました。

 

The Art of the Batman

 

 

 (以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 全編に渡って刷り込まれる暗部への疑心、そして恐怖。その中で人を繫ぎ止める存在が紡がれていたこと、その儚さと尊さを感じさせる物語りに素晴らしく胸を打たれました。

 

本作は上映時間が176分の長尺ですが、気になりません。長尺でも許容できるパターンは、「あっという間に感じる」か「長く観ていたいと思う」かの二通りだと思いますが、本作は後者です。一つ一つのカットが見応えがあり飽きることがないし、寧ろこの長尺こそがゴッサムシティを包み込む閉鎖感と重苦しさ、ひいては作品が導き出す結論のカタルシスを強めることに寄与していました。

 

そんな本作の舞台であるゴッサムシティは、権力者もそうでない者も、上も下も共に悪いことをしているような最悪な場所です。誰が敵なのかも分からないし、何を信じていいのかも分からない。疑心と恐怖に満ちています。不可知ゆえの閉鎖感が、映像から、物語から漸進的に伝わってくる。

 

そしてバットマンの登場もまた、不可知ゆえの緊張感と恐怖に満ち溢れていることが印象的です。バットマンが居るのか居ないのかを問わず、暗闇に怯える犯罪者たち。そんな彼らを容赦なく制圧していくしていくバットマン。犯罪に手を染める者にとってバットマンが恐怖の象徴であると感じられる描写の数々、そのインパクトは凄いものでした。

 

そうしてバットマンとして活動するブルース自身(=ブルースの両親)の秘密にも知能犯のリドラーのメスが入ります。バットマンとして在る自分の土台である両親の存在にさえ疑心を抱いてしまいます。

 

そんなブルースを繋ぎ止めてくれたのが、執事であるアルフレッド。父親は息子であるブルースを守るために行動していたこと、その結果は意図しないものであったこと、それらがアルフレッドの口から語られます。彼の言葉を聞き、手を握る。

 

様々な過去の事実に翻弄されてきたブルースを繋ぎ止めてくれた存在が、証拠のある真実ではなく目の前にある大切な存在だった。それは本当に胸を打つものでした。

 

そしてブルース=バットマンが人々に手を伸ばし先導する。ゴッサムシティの暗部を長い時間をかけて徹底的に印象づけた先で描かれるものが、目の前にいる人々に手を伸ばし助ける、というヒーローとしてごくシンプルでプリミティブな在り方だった。更にその助ける人の中にいたのがブルース自身と似た境遇であった子供であったことも良かった。

 

 

 

 暗部への疑心と不可知への恐怖。その中でも自己を繋ぎ止めてくれる、希望を与えてくれる存在は、手を差し伸べてくれる者だということ。本作を経て生じるバットマンの在り方の変貌は、そんな希望を照らしてくれるような物語だったと思います。本作は、真偽の不確かな情報で溢れる世界の中で、一つの指針を示してくれるような作品でした。本当に良かったです。