モリオの不定期なblog

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火傷しそうな夏に観る運命の炎はアツかった<キングダム 運命の炎/感想>

 灼熱の炎天下で、十分過ぎるほどに身体が熱せられている中、『キングダム 運命の炎』を観てきました。体温的には氷を所望なのですが、心情的には炎を所望させる実写版『キングダム』シリーズの最新作です。むせてしまうような煙たくて泥臭い環境、その中で全力で駆け、飛び、剣を振るう主人公・信をはじめとする登場人物たちのアクションは、炎こそがピッタリの熱さがあります。2019年に一作目『キングダム』、2022年に二作目『キングダム2 遥かなる大地へ』が公開されたシリーズの三作目となるのが本作であり、期待値の高い作品です。

 

まずは一作目と二作目(前作)について話しておこうと思います。一作目は同名の漫画を原作とした作品であることを実感させる人間離れした動きに見応えがある一方で、合間に挟まれるドラマパートの描写には、どうしても没入を削がれてしまう。それが非常に惜しい一作でした。特に終盤で主人公の信とラスボスの左慈(さじ)との間で行われる夢についての問答は、盛り上がりを削がれた描写としてで象徴的でした。夢への想いを力強く叫ぶこと以外(主に戦闘)の手を止めてしまう演出は、親玉である成蟜(せいきょう)の討ち取りを一分一秒でも早く成し遂げてくれることを信じて耐え凌いでいる仲間たちの切迫度合いからは、著しく乖離して見えてしまいました。

 

信の思いが理解できないわけではない。同じ志を胸に鍛錬を積んでいた漂(ひょう)が、共に肩を並べてスタート地点に立つことすら叶わず命を落としてしまった。彼の分まで夢を叶えるために戦う信の思いが十分伝わってくる。「夢があるから、」と想いを吐露する場面も、二作目における羌瘣(きょうかい)への説得に通じるものあり、芯の通った信念を感じる事ができる。(信だけに)

 

しかし、そうした想いを声にして発することによって生まれてしまう展開の停滞は、「それどころではない」というツッコミの隙を生んでしまい、そうしたツッコミと彼の本気度の間に矛盾を感じてしまう。間を沢山使い感情を表現する描写・演出は、「感情を吐き出す」こと以外の情報・状況に対して一気に無頓着になっているように見えてしまう事によって、作品への没入を削いでしまっている。

 

直前まで、「耐え凌げば俺たちの勝ちだ!」と鼓舞する嬴政(えいせい)をはじめ、命を削る覚悟で時間を稼いでいる者たちの姿を直前に観ている状態では、夢についての問答にもどかしさも感じてしまい、「せめて戦いながらで!」と思わずにはいられない。

 

そんな惜しさ・もどかしさを感じた一作目に対して二作目は最高でした。一つの国の内戦を描いた一作目とは異なり、他国との戦争、つまり本格的な合戦が描かれた二作目は、信にとって本当のスタートです。最初の突撃開始時の信が先陣を切って走っていくシーンは、信という一人(漂と合わせて二人)の夢が、戦場という舞台で一気に大きくなっていくのを見事に表現しています。

 

遠のいていく仲間の兵士、壁のように待ち構える敵の兵士。スケールがどんどん広がっていく映像が、舞台の壮大さと同時に信の持つ夢の壮大さを形にしていく。

 

圧倒な映像表現に対する興奮と物語に対する感動が見事に連動したシーンは、本作のハイライトであり、以降の没入感を強固なものにしていました。

 

そうした中でも、二作目で初登場する羌瘣(きょうかい)周辺の描写に象徴されるように、一作目にあった問題点は解消されているとは言い難い。一分一秒の間に情勢が大きく変化し、一秒一瞬の間に沢山の命のやり取りが行われている中で、「逃げろ」「生きろ」の押し問答が倒れ込んだ状態で行われる。物語の動線、感情の動線は理解し共感できるから「お前はまだ生きてるじゃないか!」という羌瘣の思いそのものには感動する。しかし、画面の奥で剣を持って戦っている兵士が今にでもこっちに向かってきてもおかしくない状況下では、「気持ちは分かるけど、5秒後に死ぬぞ!」と心の中で叫ばずにはいられない。

 

しかし、物語を最も引っ張る存在である主人公の信が戦争へ臨む動機・内面の描写は、基本的に一作目で終えているため、アクションとのバッティングが軽減されている。

 

また、信が突撃直前に構えた時に票が構えるカットを差し込む演出は、信と票のドラマが感じられるシーンであり、画でも十二分に伝わることができると確信が持てるものでした。(だからこそ、アクション等の流れを止めて登場人物に叫ばせることを優先した演出が、気になってしまうのだけれど)

 

頭の中で、アクションシーンに沸き立つ自分と、差し込まれる感情の演出が気になって仕方ない自分による押し問答が、自分にとっての映画『キングダム』シリーズの評価の土台となっています。二作目の時点では前者が優勢、本格的な合戦へのスケールアップに相応しい合成技術とアクションにより、前者が強くなる一方で、アクションと内面の描写とのバッティングの減少などにより、後者は弱くなっています。

 

敵陣に切り込んでいく信たちの綱渡りのような物語とともに、作劇に対してもスリリングを感じている本シリーズの最新作は、果たしてどう映るのか。

 

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映画『キングダム 運命の炎』予告②【2023年7月28日(金)公開】 - YouTubeより

 

 

(以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。) 

 

 

 

 

アクションで生まれる情動に振り切る構成

 面白かった。とても良かったです。次回予告があると身構えてなくて驚いた前作とは異なり、絶対、次回予告あるだろうと身構えさせる幕引きだったのに、次回予告がなくて驚いた本作。序盤のナレーションで一気に済まされてしまった信の修行編とか、なんだか非常に見応えのありそうなエピソードをすっ飛ばされてしまったかのような気もする本作。それでも、とても良かったです。各登場人物のドラマがアクションに集約されていくような作劇がとても魅力的であった作品でした。

 

前作の気になる部分を殆どそのまま引き継いだ点も、気になる部分に勝るスペクタクルが提供されていた点も、二作目と共通していました。本シリーズの魅力としては、やはりアクションシーンが挙げられるところですが、特に本作では飛信隊という名前の隊を率いて戦うことになる信のアクションを筆頭に、アクションそのものが、ドラマを物語る要素になっていました。回を重ねるごとに登場人物たちへの思い入れも登場人物同士の繋がりも強くなるに伴って、アクションから生まれる情動も強くなる。

 

アクションの停滞を生んでいた過去の回想やそれに伴う台詞による感情の発露も、本作では殆どありませんでした。それも、二作目における信と同様で、飛信隊の面々、特に羌瘣はアクションに専念していたおかげで、そのポテンシャルを最大限発揮していました。作戦は、先頭を走る信を鏃に見立て、隊全体が矢の如く一直線になって突っ込むというものなので、止まったら死ぬというシチュエーションになっています。結果としてアクション中の停滞が生まれいくい状態になっていました。加えて、羌瘣は信と連携技を繰り出すなど、単騎では成せない作戦と技が、アクションのみで飛信隊のドラマを作り出していました。

 

アクション中の台詞の介在を極力排しながら、既に築き上げられた登場人物間の絆をアクションそのものから感じさせる。そして、それを主人公の信が牽引しているのを飛信隊の作戦が具現化していき、最後の一手へ繋がっていく。本作の強みを最大限濃縮したかのような作劇に、後半は興奮させられっぱなしでした。

 

 

 

アクションと分離する嬴政の過去

 本作では、嬴政の過去が描かれるのですが、印象的だったのが、その描写は作品の前半に収まっており、合戦が始まってからは触れられなかったことです。嬴政が中華統一を目指す動機と思いの強さ、これまでの嬴政の言動を感じさせる重要な要素であり、今後の展開を牽引する要素にもなり得ると思われます。一作目・二作目の傾向であれば、こういった描写は、合間合間に挟まれていくのかと思っていたのですが、前半で最初から最後まで一気に描かれていきました。前半の過去編と後半の合戦を織り交ぜて描くことで一つの作品としての強度を高めるよりは、明確に分けて描くことで各パート単位での色を明瞭にする。そうしてアクションの流れを途絶えさせなかったことが、アクションに専念できた要因だったと思います。

 

そうした過去の描写・ドラマが後半の怒涛のアクションと分離したことは良かったと思うと同時に、本作において、嬴政の過去の描写が、王騎将軍に参戦の決心をさせた以上の作品における意味を見出せなかった点が気になってくる。原作があることを踏まえると、嬴政の過去の描写は、今後活きてくるのだろうと思われますが、映画である以上は本作全体に渡り意味を見出せる作劇であって欲しいという思いもある。一方で、こうした作劇が生まれるのも、原作漫画がある作品ならではだ、とも思える。こうして好意的に受け取ろうと思えるほどの魅力があることは間違いありません。

 

 

 

アクション大作への道

 個々のアクションにより作り出していたカタルシスが、群のアクションのカタルシスへ見事に昇華していたと言える本作。終盤の圧倒的強キャラ感に満ちた新しい敵の登場による「次回へ続く」といった感じの幕引き、ナンバリングが無くなったこと、顔出し程度の新しい登場人物など、一本の映画としての完成度を高めるというよりは、どちらかというと大河的な、連続ドラマのような構成にシフトしてきた『キングダム』シリーズ。その是非は次作次第かと思いますが、合戦スペクタクルとアクションで魅せることでは、現在の邦画では随一シリーズと言えるので、この調子でアクション大作の道を極めて欲しいと個人的には思う次第です。そうした今後への期待が高まる一作でした。