モリオの不定期なblog

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人造だからこそ、人の創りしもの故に映画から受け取る力<シン・エヴァンゲリオン劇場版/感想>

 7月21日(水)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の上映が終了しました。それも興行収入100億円突破という快挙を達成して。

 

今だに感染症の流行収束の兆しが見られない状況下で無事に映画が上映されるのか、上映されたとしても劇場に足を運ぶことができるのか。そんな不安に包まれる中で出された「約1週間後の月曜日から上映開始」という突然の発表。新劇場版から数えても14年、テレビシリーズの放送開始から数えるとおよそ26年もの時間が経過したシリーズが遂に終劇を迎える高揚感、それをじっくりと噛みしめる余裕もない困惑感。「エヴァンゲリオンが終わりを迎える。」この事実だけでも十分に記憶に残る作品であったのに、その最後の幕開けもまた、非常に記憶に残るものでした。

 

「この状況下で上映されただけでも儲けもの。」という思いと、「煽りを食って欲しくない。」という思いが混在していましたが、蓋を開けてみれば100億円突破という快挙。本当に凄い。関わった全ての方々に、全力の「おめでとう」を送りたいです。

 

さて、それはそれとして、本作の感想はまた別の話。果たして自分にとって『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がどうだったのか。それを記しておきたい。

 

CGWORLD (シージーワールド) 2021年 08月号 vol.276 (特集:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』)

 

 

(以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 

 結論から書くと大号泣しました。それはシリーズの完結に感極まったとか、万感の思いに浸ったからという訳ではなく、本作の終盤の描写に観客へのエールを感じ、いたく感動した訳です。具体的な場面を説明すると、シンジがマリの迎えを待っている場面から最後まで。シンジはマリが迎えに来るのを砂浜で座って待っているのですが、何故かその映像が未完成ものに遡っていきます。映像の色が無くなり、線も下書きになり、完成した映像から遠ざかっていく。遂には作業を行った人が書いたと思われる「よろしくおねがいします。」という言葉までが確認できる始末。つまりは、本来は未完成であるはずの絵が映されているんです。

 

実在のものから情報を抽出し、取捨選択し、それを見た目だけではなく動きに落とし込む。本物ではない存在を本物であるかのように見せてくれることが、アニメーションの醍醐味であり最大の魅力の一つであると思います。しかし、この作りかけの映像を流すことは、それらを台無しにし、没入している状態から一気に素に戻すことに繋がるし、そもそも完成したものではなく作りかけの状態のものを見せるということが有り得るのか、と思います。

 

しかし、自分は涙しました。だからこそ涙を流しました。それは、空想の産物である作品と現実に繋がりを感じさせられたからです。

 

 

 

 アニメーションに限った話ではありませんが、作品に没入する傍らで、現実に存在するものではないということ、造られたものであることも冷静に認識しています。(だからこそ、メイキングを見て楽しんだりすることもできる。)

 

碇シンジをはじめとする登場人物たちは現実に存在している訳でもなければ、当然エヴァンゲリオンという名前の兵器も存在しない。物語の展開を固唾を飲んで見守る一方で、空想上の出来事であることを認識している。

 

しかしそうであったとしても、人が創ったものである以上、作品の中で描かれるものの中に人の思いが込められていると感じるんです。想像上の出来事でありならがら、現実の自分の血肉となり明日を生きていく力となっている訳です。意図的に差し込まれた未完成の絵は、まさに「人が創りしもの」であることを意識させるものでした。

 

そして更にそんな中で見せられた最後の光景は、実写の風景の中を走り去っていくシンジとマリの姿です。本作の総監督である庵野秀明氏の妻である安野モヨコ氏の漫画『監督不行届』の後書きにて、庵野秀明氏は以下のことを述べています。

 

嫁さんのマンガのすごいところは、マンガを現実からの避難場所にしていないとこなんですよ。(中略)マンガを読んで現実に還る時に、読者の中にエネルギーが残るようなマンガなんですね。読んでくれた人が内側にこもるんじゃなくて、外側に出て行動したくなる、そういった力が湧いて来るマンガなんですよ。

 

ラストシーンは正に、物語が終了して観客が現実へ出ていくエネルギーを与えてくれるようなシーンだったと思うんです。アニメーション(映画)などの創作物は、決してその中で完結するものではなく、現実と地続きのものである。だからこそ、上記で述べたシーンは、これまで作中で起こった全ての出来事が、転じて観客である自分に向けたエールのように思えた訳です。

 

安心して生活することのできない中で元の世界を取り戻そうと必死に生きている登場人物たちの姿が、全て、自分へ向けた「がんばろう」というメッセージとして雪崩のように流れ込んできました。

 

だからこそ、本作のラストに感動しました。

  

 

 登場人物に感情移入し作品に没入する自分と、登場人物たちや世界観を俯瞰している自分。今回は後者の自分までもが作品に引きずり込まれたかのような体験でした。

 

生きる上で力や勇気を与えてくれるものは人それぞれだと思いますが、自分にとって映画やアニメーションは、その一つなのだと実感した作品でした。本当に力を貰いました。ありがとうございました。