モリオの不定期なblog

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新次元の映像に大興奮<ウルトラマンR/B(ルーブ)・感想・ネタバレ>

 『ウルトラマンオーブ』で再び「ウルトラマンはじめました」な私にとって、映画館でのウルトラマン鑑賞は今年で3回目。近年のウルトラマンのハイクオリティな映像を、毎週テレビで楽しむ事ができている一方で、劇場版がテレビシリーズに比べ斗出したクオリティの映像であるとは言い難いと思っていました。そんな中、『劇場版 ウルトラマンR/B(ルーブ) セレクト!絆のクリスタル』では、ウルトラマンVFXで表現される。この時点で、テレビシリーズでは観る事の無かった映像を観る事ができると感じ非常に大きな期待を抱いていました。という訳で、劇場版前二作以上の期待感を胸に映画館で鑑賞しました。

 

カツミの夢、ひいては兄妹や家族の絆の描き方に疑問符の残るものになってしまいました。しかしその一方で、新次元とも呼べるハイクオリティな映像を非常に楽しめました。

 

 

(以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 


 まず初めに、湊カツミの悩みが漠然としていた事が気になりました。夢に悩んでるとはいっても、夢について何に対して悩んでいるのか?それが分かりませんでした。夢はあるがウルトラマンとしての義務感から、夢への一歩を踏み出す踏ん切りがつかないのか?野球の夢を諦めた事を引きずっていて、また挑戦しようか否か、と悩んでいるのか?野球の夢は諦めがついているが、新しい夢を見つけられなくて悩んでいるのか?そこが不明瞭な為に、本作におけるカツミの成長が感じられません。トレギアに問われる「ウルトラマンか?湊カツミか?」という質問。ウルトラマンとして一番強く義務感を感じている中で、どのように折り合いをつけて自分の夢をどう追いかけるのか?

 


「カツミの夢」「ウルトラマンとしての活動」「家族の絆」それぞれの要素が並行して語られているようで繋がっていない。映画全体における、「感情面の山場」つまり3兄妹がウルトラマングルーブに変身するまで、感情の盛り上がりに付いていけなかったのが本音です。

 


しかし、そんな中でも胸にくる場面はありました。例えば、本作で一年ぶりに登場し先輩として成長した姿を見せてくれた朝倉リクです。彼は本作で、トレギアの誘惑に負け怪獣にされてしまった戸井を説得し、諦めそうになった湊兄妹を鼓舞しました。戸井と湊兄妹は共に家族が居るのに対し、リクには居ません。しかし、アサヒも言っていたように、大事なのは本当に血が繋がっている事ではなく、どれだけ思っているか。その事を戦いの中で実感してきたリクだからこそ、彼の発する言葉一つ一つに重みがあり説得力がある。それを視聴者として見届けてきたので、リクの力強い言葉に胸に込み上げてくる物がありました。

 

だからこそ、一つ一つの場面が良かっただけに、散漫となって映画全体の着地点が分からなかったのが余計に残念に感じてしまいます。

 

 


 カツミが友人の現状にショックを受け珍しく苛立ちを見せる場面があります。トレギアの魔の手がカツミに迫る場面で、トレギアは「人の絆は、個々が持つ夢などから生まれる嫉妬や妬み、怒りの前では脆い。」という持論を述べます。トレギアの理論でいくと、イサミとアサヒに対してその苛立ちをぶつける筈ですが、ぶつけないどころか、口に出しすらしない。カツミの良さが感じられますが、裏を返せば成長の余地がないとも考えられます。家族の絆の強さを描く本作において、絆を脅かす可能性を生むであろうカツミの持つ夢の悩みは、具体性が無い上に家族は殆ど触れない、そして何よりカツミ自身がイサミやアサヒに対して嫉妬心や怒りを見せません。

 

カツミが戸井を説得しようとして「お前だって夢を諦めただろ!」と一蹴されてしまった時、言い返せない悔しさと決して家族を言い訳にしないという気持ち、自分と違って夢を追える友人に対する羨ましさからくる苛立ち、様々な感情の入り混じった表情をして堪らずに空き缶を蹴っ飛ばしたカツミの様子は、見ていて非常に辛かったです。

 

 


 そもそもカツミが持っている悩みが、イサミとアサヒの2人に共有されていたのかどうか?「カツ兄も自分の夢、叶えてよ。」とイサミが気遣う様子が見られてはいたが、実際にカツミが悩んでる場面、つまり中盤においては悩みに関わるどころか話す場面もありません。グルーブに変身する場面において、「絆を諦めない。それが家族!」と力強く言いますが、その心の近さを3兄妹に感じられない。前述した通り、カツミが野球の夢を諦めた点において何のフォローも無ければ家族間で触れられる事もありません。

 

個人の持つ夢から生まれる妬み嫉み怒りが絆を簡単に壊すというトレギアの理論を、家族・兄妹の絆の強さをもって凌駕する。それを象徴する存在として「ウルトラマングルーブ」が誕生するという話運びなのだと思います。しかしこれでは、家族の絆を語る以前にカツミの持つ問題に何もフォローが無いどころか、家族がカツミの問題を意識もしくは気付いていないのではないかと思えてしまう。そんな状態で絆の強さを語られても、「家族の絆」を免罪符にしてるように思えてしまいます。

 

 

 


 テレビシリーズで何となく感じていた「カツミが長男として損をしている感じ」が、劇場版ではカツミに焦点を当てた事で浮き彫りになってしまったように感じます。


これは鑑賞が終わった後に考えた事なのですが、そこまで自分がそんな風に思ってしまったのは私にも兄弟がいるからです。劇場版を含め『ウルトラマンR/B』を追っていく中で、自分も同じ風に兄弟に負担を掛けてしまっているのではないか?特に兄には、長男という立場のせいで何かを諦めてしまったのではないか?そんな風に考えてしまったんです。

 

だからこそ、カツミに対して「家族から」フォローが無い事が気になってしまったのかも知れません。これは湊兄妹などに限った話ではなく、実際の兄弟でも言える事なのではないでしょうか?大なり小なり、長男という立場で何か貧乏くじを引かされてしまった。

 
家族にはせめて感謝している事をカツミ伝えて欲しかった。そうする事で初めて、家族の絆をカツミが語る事に至れるのではないのかと思います。カツミに焦点を当てているようで、寧ろカツミの事が雑に扱われてしまっていると感じました。それに伴って、家族の絆とウルトラマングルーブへ変身への過程がいまいち納得できませんでした。

 

ウルトラマンR/B(ルーブ) DXマコトクリスタル

 

 

 

 

 不満点を長々と語ってしまいましたが、本作の目玉であるVFXで表現された「ウルトラマングルーブ」の戦闘シーンを観ている間は、諸々のモヤモヤを忘れていました。

 

円谷プロダクションは往々にして、制作当時の会社や社会と、規模は異なれど製作時の状況が作品に反映されています。2011年3月11日に東日本大地震が発生した際には、『ウルトラマンサーガ』のラストカットが東北地方にズームアップであったり、特撮面では建物の破壊描写はなかったりと、東日本大地震を強く意識した作品になっていました。また、円谷プロダクション自身の状況から、予算が大幅に制限された事でセットや小さくなり着ぐるみの数も減りました。現在でも、毎週新しい怪獣が登場するわけでなく過去作で生まれた怪獣が登場するなど、会社の状況も含めた背景が作品に反映されています。

 

そんな中、予算の関係で昨年まで不可能だったVFXで描かれるウルトラマンが、遂に映画の大スクリーンで登場する。鑑賞する側も意識的にせよ無意識的にせよ、そういった背景を鑑賞した作品に結びつけて考えてしまう為、「遂に、これが出来るようになったのか。」と、それだけで嬉しくなってしまうんです。グルーブが登場し着地するシーン、カメラが建物の間を通り着地点に近づきながらグルーブを見上げる。着地と同時に画面いっぱいにグルーブを映し、最後に横顔のカット。

 

VFXならではの立体感と躍動感のあるカメラワーク、VFXウルトラマンの質感、そしてグルーブの横を飛んでいる鳥たち。思わず「おおぉ…」と声が漏れてしまいそうでした。(いや、「お」の半分くらいは漏れてたかも。)

 

かつてオーブやエックス、ルーブで見せてくれた空中戦はアイディアに溢れCGモデルを使わずとも立体感と臨場感のある映像になっていました。しかし同時に、CGモデルを使わない空中戦の限界も同時に感じていました。

 

グルーブとトレギアの繰り広げる空中戦は、これまで思っていた枷から解放されたかと感じる程、カメラもウルトラマンも存分に動きます。特報の最後にも映っていたキック、全体重を乗せて曲がっている膝を一気に伸ばしトレギアを吹っ飛ばす動きは自然で格好良い。そしてダイナミラクルタイプやゼアスよろしく、グルーブが前に回転しながら降下して着地を決め、そのままVFXと着ぐるみが混在する地上戦に突入する。この一連の流れが本当に素晴らしい。

 

VFXで表現されたウルトラマンが着ぐるみのウルトラマンや怪獣、模型と同居しているのは、互いの表現に相乗効果をもたらしています。模型や着ぐるみでは不可能なディティール、ひいてはウルトラマンや建物にSFXでは出せない巨大感を付与する表現をVFXは可能にします。対してSFXは、実際にセットを用意しアクターの方たちがスーツをきて演じる事によって、VFXには出せない実在感を表現しています。

 

本作の映像は、新しい技術を使いながらも、まさに特撮ならではのものに仕上がっていた事が本当に良かったです。VFXかSFXの、どちらかではなく、両方を組み合わせる事で映像を作って欲しいと思っていた私にとって、本作のウルトラマングルーブの戦闘シーンは観たいと思っていたものになっていました。今後も、こういった表現を追求していって欲しいと強く思わせる作品でした。とりあえずは、本作のメイキングが早く見たいです。