モリオの不定期なblog

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障害者の在り方、ボランティアの接し方を描いた傑作<こんな夜更けにバナナかよ・感想>

 

 今年は昨年よりも多くの映画を観れればなと考えています。という事で早速観て来ました。しかし前回は『ドランゴンボール』の感想を投稿していました。どういう事でしょう?

 

 

もう察している方もいらっしゃるかと思いますが、『ドランゴンボール』と同じ日に鑑賞し考えた感想が吹っ飛んでしまった作品が『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』です。

こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 (文春文庫)

 

という事で先日、2回目の鑑賞に行ってきました。感想が一度吹っ飛んでしまった事は置いといて、もう一度観て障害者との接し方を考えさせられる素晴らしい作品だったと思いました。本作で最も評価したい事は「障害者自身の在り方、障害者を助けるボランティアの接し方」を見せてくれた事、その見せ方が非常に丁寧であった事です。

 

 

(以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 

 この作品では、筋ジストロフィーを患っている鹿野靖明と彼のボランティアを描いています。一見すると鹿野がボランティアを自分のわがままで振り回しているように見えます。

 

まず最初に良いと思った点は、主人公の鹿野靖明に俳優「大泉洋」を起用した事。彼の持つイメージや人間性が、序盤における鹿野のわがままに対し嫌味を感じさせなくしています。鹿野の母親の言う「本当は優しい子」という言葉をすんなり受け入れる事ができます。鹿野靖明に対し好意的なイメージを抱きやすいという土台を作り上げた点において、大泉洋を起用した制作陣には賛辞を送りたいです。

 

 

 

 話を本編の方に移します。彼は決して「障害者」として振る舞いません。彼は「健常者」であるボランティアと対等に接する。身の回りの世話は「障害者」としてお願いするのではなく「健常者」としてお願いします。

 

更に重要な点は、障害者である主人公は唯一の武器である「言葉」を使い、助けてもらった分の恩をボランティアに返している点です。会話の端々から、ボランティア達がそれぞれ持つ悩みを普段から聞いていた事が伺えます。三浦春馬演じる田中久の父親との関係、高畑充希演じる安堂美咲の夢、同じくボランティアである前木貴子の子育て、その他のボランティア全員の仕事。

 

体を動かせない分、他の人以上に話をするなど言葉を使って出来る事をボランティアの人達にする。そうする事によってボランティアと対等に接する。出来ない事があるのは誰でも同じで、それがたまたま体を動かす事だというだけ。自分が出来る事に目を向けて、その中で最大限に取り組む。時には人の手を借り、時には人に手を貸す。そこに「障害者」も「健常者」も関係ない。「自分はボランティアと対等である。」事を行動で示す。そんな主人公の在り方に心が揺さぶられる。

 

 

 

 呼吸器も十分に機能しなくなり止むを得ず人工呼吸器を付けた事で、鹿野は声を出す事が出来なくなります。見舞いに来た母親の手を触れる事を求める。ここが、彼が唯一弱みを見せる瞬間です。

 

しかし鹿野の真の強さが発揮されるのは、この後。彼は、振る舞いを一切変える事なくボランティアをこき使う。それに応えるようにボランティアである安堂美咲が声の出す方法を発見し遂には再び声を出せるようになった。この映画の鑑賞態度として間違っている気もするが、この展開は実に痛快だった。彼は「いつも通り」に振る舞うだけではなく、後ろで流れる音楽も「いつも通り」なのである。ある意味、障害を鹿野の在り方が負かした瞬間のように私には映り、前述の展開と相まって泣き笑いしてしまいました。

 

 

 

 本作が優れている点はこれだけではありません。ボランティアの田中久と安堂美咲、2人の悩みをしっかり描いている事です。本記事の初めの方で「鹿野靖明と彼のボランティアを描いています。」と述べたのは、その為です。それぞれの夢、2人の仲、それぞれの問題に悩んでいる姿を見せる。そして鹿野が、その悩みを聞いたり、気遣い、時には自分の体の状態すら利用して彼らの悩みを晴らそうとする。そこを描く事によって、鹿野の在り方とボランティアにお願いする事に対する捉え方に説得力が生まれる。

 

障害を持っているからではなく、彼の生き方在り方は万人に通じるものがあるからこそ、心を震わされ涙する。

 

 

 

 「自分が同じ病気にかかった時、あれだけ力強く生きる事が出来るだろうか?」

 

そう考えると、涙が止まらなかった。本編の最後、カラオケで皆と楽しそうに歌う鹿野の姿は忘れる事はないと思います。彼の生き様を通じて、自分に正直になり、人を支え、支えられる事の大切さを感じました。新年早々、素晴らしい作品に出会う事ができ嬉しかったです。