モリオの不定期なblog

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異なる選択・ルートを認識しているからこその唯一無二の体験。<Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅲ.spring song・感想>

 桜が咲く季節に公開するはずだった作品がようやく公開しました。『Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅲ.spring song』。

 

Fate/stay night 』の中で分岐する3つの物語、一つ目のルート<Fate>、二つ目のルート<Unlimited Blade Works>、そして三つ目のルート<Heaven's Feel>。3番目の最後の物語である『Heaven's Feel』が三部作構成で劇場アニメ化。今回はその三部作の完結編です。(こうして書いてみると少しややこしい…)

 

私個人は原作のゲームは未プレイ、2011年に放送されたアニメ『Fate/Zero』が本シリーズとのファーストコンタクト。その後もアニメ作品と現在配信中のスマートフォンゲームに限り、『Fate』シリーズに触れています。

 

アニメ『Fate/Zero』の映像美に度肝抜かれ『Fate』シリーズに入った身としては、今回の劇場三部作は非常に楽しみだった訳です。テレビアニメの時ですら「劇場作品のクオリティじゃないですか…」と思っていた作品が本当に劇場版になってしまったんですから。

 

そんな劇場クオリティな作品の劇場版。第一章と第二章では、映像に魅せられながら、本シリーズが現在の人気を獲得した所以を肌で感じる完成度。これ以上にないホップ・ステップが決まり、残すはジャンプのみ。すぐにでも跳びたい気持ちを抑え「春よ、来い」と思いながら一年以上待った末の公開延期。ジャンプの構え延長コース。そして更に約5ヶ月が経過した今、遂に公開。

 

花粉を防ぐためにマスクをしながら観賞するのだろうと思っていたら、別の理由でマスクをして観賞する事に。予定どおりに公開してた時と同じようにマスクをつけているのであれば、これはもう3月なのだろう。延期などしていなかったのだ、良かった。(違う)

 

冗談は置いといて。焦らしに焦らされた中でおかしな事になった期待値を超えてくれるのか。終わってしまうことへの名残惜しい気持ちと、遂に物語の終わりを目撃することができる高揚感が共存した状態で観賞。

 

公開延期が発表された時、延期を嘆く方達の様子を見て、恐らく桜が満開の場面で物語の幕が閉じるのだろうと、なんとなく察していました。しかし個人的にはその事よりも「そこ誰がいるのか?そこにいる人は、幸せなのだろうか?」この点が重要でした。最悪バッドエンドもあり得るのではないか思っていました。

 

そんな中で、観賞後に抱いたのは「これで良かったのか?」という問い。しかし、分岐した他の物語を知っているからこそ、他に可能性があることを知っているからこそ体験できた、唯一無二の作品でした。

 

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 (以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 

 

 まず映像面から話そうかと思います。世界観に奥行きと深みを与えてくれる写実的なビジュアル、その中に二次元のキャラクターを立たせる撮影の技術、そして写実的なビジュアルに耐えうる作画。そのどれもが高水準。重みのある物語、その中で繰り広げられる別次元の戦い。その密度に相応しい映像になっていると思います。

 

強いて難点を挙げるならば、暗い洞窟の中であまり目立たない色の格好をした者たちが戦っているので、戦闘が少し見辛かったところです。

 

個人的に良かった点は、主人公である衛宮士郎が戦闘に参加していた点。前作では壮絶な戦いが繰り広げられている傍で、それに巻き込まれまいとする主人公達の姿が描写されていた。

 

最終章であり前作以上の戦いが予想される今作では「士郎にできることはあるのか?介入する余地あるのか?」という疑問がついて回りました。近づくことすらままならない圧が、これまでの戦闘にありました。

 

そんな考えは杞憂だと、まるでスクリーンの向こうから言われているかのような戦闘シーンを見せられました。本当に素晴らしかった。特に衛宮士郎&ライダー対セイバーオルタ。各登場人物のパワーバランスを意識しながら、主人公達が勝利するまでの道筋が原作を知らない自分でも理解できる仕上がりになっていました。セイバーオルタ優位である状況に主人公が加わることで勝機を作り出す。その描写が見事でした。

 

また、その戦いの中での主人公の活躍。その描写が、今回の主人公の物語にも繋がっていました。

 

 

 

 そんな主人公は、活躍と同時に痛みに苦しむ事になる。明らかにパワーが桁違いな者同士の戦いに入っていく中で、主人公は大幅なパワーアップが求められる。それに対して、他の者の力を代わりに使うことで対応するのだが、その無理矢理パワーの底上げをした事の代償として、身体に異変が起きる。

 

その異変、主人公にとっての肉体的な苦しみ・痛々しさが、そういったパワーアップ、ひいては壮絶な戦いに一枚噛むことへの説得力を持たせる要因の一つになっています。

 

そしてその苦しみが、主人公の歩んできた道、これから進むであろう道の悲痛さを感じさせ、観ているこちらまで苦しくなってくる。

 

 

 

 本作で一番心に残ったところは、やはり最後の主人公の選択。「正義の味方」という志を捨てることだけではなく、大切な人を守るために自分の身を犠牲にすることさえも躊躇した。

 

しかしそれは悪いことではないし躊躇するのはおかしなことではありません。寧ろ、躊躇してしまうことだからこそ、二つ目のルートで「正義の味方」を目指せる主人公の姿が凄いし尊かったのだと再認識できた。そして、それをできなかった本作の主人公の姿もまた尊重したいと思わせられるんです。

 

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ヒーローや正義の味方、つまりは二つ目のルートにおける主人公に対して感じたのが「憧れ」であったのに対して、三つ目のルート、特に本作では「共感」でした。

 

他人のために自分の身を犠牲にすることは難しいし、ましてや、自分の命を捨てることは怖い。自分を犠牲にしてでも助けたいと思えることと、自分を犠牲にできる勇気があることはイコールではない。

 

だからこそ、第二ルートの主人公の姿には憧れを抱き、本作のラストの選択がとてつもない共感と感情移入が生まれたのだと思います。

 

 

 

 しかしそれ故に、ラストの彼の端末に対して「これで良かったのか?」と思わずにはいられなかった。

 

主人公は命を落とさずに済んだが、本来の肉体を失い人形の身体になってしまった。あの状況で死なずに済んだだけマシなのかもしれない。戦いの中で身体がああなってしまった時点で、五体満足とはいかないのだから、寧ろこれで良かったのかもしれない。そもそも、主人公達は命助かっただけでも十分満足していて、これは「余計なお世話」なのかもしれない。

 

しかし、別の可能性たる二つ目のルートを含め、これまで自分のことを犠牲にすることに躊躇のなかった主人公が、遂に涙ながらに「死にたくない。」と言う姿にとてつもない人間味を感じた自分にとっては、彼が元の肉体を失ってしまった事実は受け入れ難いものでした。五体満足で、平和な日常に戻って欲しかったと思わずにはいられません。

 

思えば、第二ルート第三ルートは共に主人公の選択を問われ続けていた気がする。自分目指す目標と理想、その在り方、常に問われても折れることのなかった主人公が、最後のルート・物語で折れる。最後にヒロインと並んで立っていた主人公は、どんな思いだったのだろうか。観賞から数日たった今でも、そのことを時折考えてしまいます。

 

 

 

 

 本作を含めた今回の三部作は、3つの物語の分岐を最大限に活かしている。二つ目のルートでは理想は突き進む姿を見せ、本作を含める三つ目のルートでは理想を捨てる姿を見せた。

 

異なる選択と在り方を知っているからこそ、それぞれに感じることのできる選択の尊さ。その決意に憧れ、決断への葛藤に共感した。まさに唯一無二の体験でした。