モリオの不定期なblog

映画・特撮・アニメの感想や思った事を書きます。宜しくお願いします。

張り詰めた空気の中の「笑い」に揺さぶれ惹きつけられる<鎌倉殿の13人/感想>

 10月から放送していたTVアニメの放送が終わったり、特番により毎週放送しているバラエティがお休みになるなど、年末の香りを感じ始める12月中旬、1年に渡り描かれてきた物語が幕を閉じました。

 

NHKにて放送されていた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。最終回が18日(日)に放送された本作は、人を殺すことが今以上に身近な時代で生きること、争わずして収めること、盃を交わした仲間との繋がりを保つこと、それらの難しさが描かれてました。そして、同時に描かれていた、何とかしようと踠き苦しみ、遂には折れてしまった者の物語。彼が抱いた希望と、もたらされた報いには、彼が戦った過程と結果があったからこそ感じる優しさや悲しみなど、一言では言い表せないほどの思いが込められていました。

 

そんな本作において、物語を感じる上で重要な要素となっていたと感じた部分を含め、物語の終盤について書いておきたいと思います。

 

大河ドラマ 鎌倉殿の13人 完全版 第四集 ブルーレイ BOX[4枚組] [Blu-ray]

 

 本作の特徴は、人の生き死にがかかる話が続く物語でありながら、ユーモアを交えている点です。脚本を担当した三谷幸喜さんによる部分が大きいと思われる「笑い」が、本作を観賞し登場人物たちに感情移入する上で、非常に大きな役割を果たしていたように思います。観ていて思わず箸を動かす手が止まってしまうほどの緊張感漂う中で唐突に差し込まれる一見場違いな「笑い」は、安らぎをもたらすだけではなく、時にはエグ味の詰まった残酷さを強調していました。

 

作中の「笑い」によってもたらされるのは、登場人物の破顔または動揺の顔。登場人物にとって想定外のことにより崩される表情。そのから垣間見える彼らの内面こそが、より身近な生きた人間に感じられる。階級、勢力、家など、強いしがらみが彼らの顔を建前で覆い尽くし、場合によっては、それが拭えなくなって、元々どんな顔だったのかも分からなくなってしまう。そうした仮面を取っ払ってくれたのが、「笑い」でした。

 

舞台も登場人物も過去のもので、遠い存在のように思えてしまう。彼らの生活、仕事、身に付けているもの、口にするものなど、何もかもが違います。そんな中で「笑い」は、建前をなくし(ているように感じさせ)、彼らの思いを感じ取るランドマークとなってくれました。

 

最終回「報いの時」にて、「女子(おなご)はキノコが好き、というのは嘘だ。」と平六に伝えられた時の小四郎の表情は、最終話に至るまで小四郎の顔を覆ってきたあらゆるものが溶け落ちていくように見えて、とても印象的でした。その前、小四郎と平六の関係が最悪の形で終わることを予感させる展開からの、毒ではなく酒だと種明かしされ平六が「あ、本当だ。」とケロッとして見せる描写も相まって、懐かしさと安堵を強く感じました。

 

観ているこちらが思わずずっこけてしまいそうになる間の抜けた描写・やりとりが、気の張り詰めた中で不意打ちのように訪れる。相手の裏をかき不意をつくことが、あらゆる勢力・人物の間で行われていた本作ですが、その番組自身は、視聴者に対して「笑い」で不意を突いてきます。ある意味では、『鎌倉殿の13人』と視聴者の戦いの一年であったようにも思えます。

 

そうした戦いの中心にいたのが他ならぬ小四郎であり、最も感情移入をさせられたのも彼でした。初代・鎌倉殿である源頼朝が亡くなって以降、ことが起こった際、小四郎が誰かを討ち取らずに済むようにあちこちに根回しをしていましたが、その努力は水泡に帰す。そうした経験を重ねるうちに、いつしか小四郎の心は折れてしまい、誰かを切り捨てることで、ことを納めるようになってしまう。そうして遂には自らの命を以てことを納めようとするにまで至ってしまった小四郎を繋ぎ止めてくれたのが、姉である政子でした。第47回「ある朝敵、ある演説」で見せた小四郎を救わんとするための政子の演説。初めは取り繕うとした建前を取っ払い、戦うことを呼びかける政子の姿と、その時に見せた小四郎の表情は心を打つものでした。

 

そして、最後に小四郎が命を落とす最後の一手を打ったのも、姉である政子でした。一見すると矛盾しているように思えますが、一貫していることは、小四郎だけに重荷を背負わせないこと。小四郎がやってきたことを見てきたからこそ、心が折れてしまったこと、それでもまだ息子に託すという形で完全には諦めていないこと、そのために自らが全てを背負ってこの世を去ろうとしたことを理解していた。だからこそ、弟である小四郎一人に背負わせることはさせまいと、小四郎の命を永らえさせない選択をした。

 

政子のその思い、そうせざるを得なかった現実、その全てに感動させられました。

 

 

 

 「笑い」により時に救われ、時に突き落とされるなど、揺さぶりを受けてきたこの1年。その最後を飾るのが笑いではなく政子の悲しみであったことが、心に突き刺さる作品であった『鎌倉殿の13人』。視聴を止めてしまおうと幾度となく思いましたが、「笑い」で引き出される人の情、そこから紡がれる人の優しさを感じることができて、最後まで見届けて良かったと思いました。