モリオの不定期なblog

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ただの総集編だなんて言わせない!大画面で観る価値を作り出した快作<荒野のコトブキ飛行隊 完全版・感想>

 テレビシリーズのアニメを劇場用に再編集された映画、いわゆる総集編。そういった作品における最大のポイントは、劇場で観る意義を如何に見出せるのかということ。そもそも、既に一度観たことがある作品を、わざわざ映画館まで足を運び、1800円もの金(+交通費)を払ってまで観る意味があるのか。

 

『コトブキ飛行隊 完全版』も総集編にあたる作品。2019年に放送されたテレビシリーズの作品で、今回は12話の物語を約2時間の映画にまとめている。そう、そもそも、概算でも24分*12話=288分もあった作品を120分に縮めようというのだ。

 

12話も話がある中で、気に入ったりする場所は様々。作品の中心となる部分の場面で好きになることがあれば、本筋にはあまり関係ないちょっとした場面が気に入ることもあります。レギュラーが気にいることがあれば、準レギュラーや1話限りのゲストが気にいることもあります。そんな中で、自分が気に入っている部分が全てピックアップされた総集編になる可能性はほぼゼロに等しい。

 

仮にピックアップされても、前後の流れや使われる音楽など、そのシーンの使われ方が違うことで印象が大きく変わりテレビシリーズの時と同じような満足感が得られない場合もあります。

 

例えば『劇場版 進撃の巨人 前編〜紅蓮の弓矢〜」』では、アルミンが説得するシーンがあったのですが、イマイチ盛り上がらなかったんです。というのも、1話24分で展開される性質上、毎回1話ごとに山場を設けています。アルミンが意を決して説得するシーンは、1話単位で見ると1番の山場として設定されていたのですが、いざ総集編になると、説得するシーンはクライマックスへ向けての一つ手前の場面になっていました。なので、テレビシリーズの時なら音楽的に最大値の盛り上げ方をしていたのですが、総集編だと一段階も二段階も抑えた音楽になっていたんです。

 

 

初めから劇場版として作られていたら違和感がなかったと思うのですが、最大値の盛り上がりの音楽が刷り込まれていると、どうしても物足りなさを感じてしまいます。映画として全体の盛り上がりや緩急を考えると当然の判断だとは思います。全編盛り上げのインフレ状態になってしまったら、逆に散漫になって一本の映画としては成立しなくなってしまいます。理解はできるからこそ、もどかしい。

 

様々な総集編の映画が作られる中で、作り手の苦心が伺えます。映画で観賞する上で付加価値を生み出すために新作の映像を追加されることが殆どです。意地悪な言い方をすると「映画館でしか観られない。」を作り上げるのに手っ取り早い方法です。でもそうすると、ただでさえ足りない尺を更に圧迫する事になってしまい、元あった作品を描くことすら満足にできなくなってしまいます。かといって、2時間の作品にまとめただけでは、映画館に足を運んでもらうだけの求心力を作り出すのが難しい。

 

観てもらうために新しく追加したい、でも追加すれば一つの作品として成立させるのが難しくなる。

 

総集編は、そんなジレンマを抱えているわけです。そんなハンデを背負った状態で、如何に映画館で観賞することに価値を見出すのか、そこが最大のポイントです。

 

 

 

 まず、総集編と呼ばれるような作品においては、自分の中では二つのアプローチがある思います。縦軸の物語に絞り一本の映画として成立するよう落とし込んだ作品と、映画館でしか味わえない体験を追求した作品です。

 

まず前者は、主人公を中心に核となる物語を描き、それに関係する度合いの高い横軸の話から優先的に残していくような作品。多数の横軸の話を削ぎ落としていくことで、テレビシリーズの時とは異なる感じ方、楽しみ方ができます。『スタードライバー THE MOVIE』がそれにあたります。登場人物が多い中、主人公3人の物語に絞ることで3人の心情をより深く感じることができる作品になっています。

 

しかし、自分が特に薦めたいのは冒頭の新宿での戦闘シーン。いわゆる映画の最初の「つかみ」となる場面であり、映画オリジナルの場面のとして追加されたシーンなのですが、「新宿の摩天楼で縦横無尽に動き回る巨人たち」という特撮ライクなシチュエーションが最高すぎて、興奮を隠せません。決して長い戦闘ではないのですが、「巨人」「特撮」というキーワードが引っかかる人は、是非観て欲しい。

 

スタードライバー THE MOVIE

スタードライバー THE MOVIE

  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: Prime Video
 

 

続いて後者についてですが、これは大画面、大音響であることを最大限活かせる、もともと大画面が映えるポテンシャルを秘めているような作品です。テレビシリーズの時点から、高いクオリティの映像で作られていたり、音響に拘って作られておりテレビという環境の視聴では惜しいと思わせられる作品です。自分が観た作品の中では『劇場版 シドニアの騎士』が挙げられます。アニメ版『GODZILLA』や『HUMAN LOST 人間失格』、『スター・ウォーズ レジスタンス』や『トランスフォーマー:ウォー・フォー・サイバトロン・トリロジー:シージ』など、ハイクオリティな映像に定評のあるポリゴン・ピクチュアズというスタジオが制作した作品。日本アニメに寄せたルックスでありながら、日本アニメ離れした情報密度と立体感のある映像が最高な作品です。

 

それに負けない音響も含め、テレビという枠に収めるには勿体ないという要素に溢れている作品の総集編。「大画面で観たい!」という欲求に応えてくれただけでも満足な作品ですが、こちらも主人公とヒロインに焦点を絞っており、シドニア全体の話だった印象のテレビシリーズに対し主人公個人の物語になっていたのが印象的でした。

 

日本アニメライクな3DCGアニメを作るようになった初期の頃の作品である、かつ元々テレビシリーズだったということもあり、上記の近年の作品と比べるとキャラクターのモデルや爆発等の描写が見劣りすることは否めませんが、立体的なアクションや臨場感のあるカメラワークは負けていませんし、一本のまとまりの良い映画としてお勧めの作品です。

 

劇場版 シドニアの騎士

劇場版 シドニアの騎士

  • 発売日: 2017/08/01
  • メディア: Prime Video
 

 

話が逸れてしまいましたが、本作はどちらに該当するのか、そしてそのアプローチは「劇場で観る価値のある作品」に到達できていたのか。

 

できたんですねこれが。

 

本作は映画館でしか味わえない体験を追求した作品であり、これまで観た総集編の中でも、劇場で観ること、体感することに最も価値を作り出していると言っても過言ではありません。それどころか「劇場で観ないと勿体ない」と思わせられるほどの体験を創出した作品でした。

 

TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』オリジナルサウンドトラック

 

 

 

 本作を劇場で観ることの価値を最大限に高めていたのは何だったのかというと、「大画面と大音響で空戦を魅せる」ことに徹していたことに尽きます。

 

縦横無尽に動き回る飛行機、それを追いかけるカメラワーク。映像面においては、テレビシリーズの時点で既に映画館で観賞するのに十分なクオリティでした、それを大画面で見ることで得られる臨場感が半端ない。

 

そしてその臨場感を高めてくれるのが音響です。テレビでは2.1chと限界のあった音響が、映画では7.1chと立体感のある音響に。そこにいる空気感、爆発や物の側を通り過ぎる時に感じる風圧など、映像から感じる以上の臨場感をもたらしてくれる。映像、音響共に、テレビシリーズの頃から感じさせたポテンシャルの高さを、映画化という舞台で存分に発揮していました。

 

しかし、それ以上に特筆したい点は、本作の全体の構成が、「空戦を魅せる」ことに徹底したものになっていたことです。

 

登場人物のやりとりは必要最低限。それも、テレビシリーズを観ていた事を前提とした最低限なので、話がバンバン進んでいく。一つシーンを挟んだだけで、全然違う場面になっていることもザラです。初見で本作を観賞した人にとっては、恐らく人間関係等は何となくしか分からない。

 

しかし、これだけ空戦を魅せることに力を入れていることが伺える映像の前では、その思い切った構成には納得せざるを得ない。いつもならテンポが早すぎて感情が追いつかなくなり、気持ちが冷めてしまうところですが、「空戦を魅せる(魅せられる)!」といった感じで、制作者と意思が通じたと思える状態が出来上がっていて、その構成の振り切りっぷりには潔さすら感じるし「よくやってくれた!」と心の中でサムズアップをずっとしていました。

 

空戦を描く上での状況設定においても、空戦を魅せるための工夫が伺えます。勝利条件と敗北条件が明確です。「あの飛行機を奪われたら負け。」「あの目標物を破壊すれば勝利。」ゴール地点が明確だからこそ、映像に集中できる。空戦シーンの前後にも、集中するための配慮が行き届いています。

 

戦闘に関わりのないキャラクター同士の会話は極力少なく、次の空戦へ向けた準備・説明に尺を割いている。「敵はこの人たち、味方はこの人たち、戦力はこれくらい、目標はあれ、こうすればこちらの勝ち、劣勢です。」戦闘機をじっくり見せてくれる時のスピード感で見ていると、うっかり聞き逃したりしてしまいそうなテンポの速さ。

 

しかし、聞き逃した場合でも、任務の対象が途中で挿入されていたり、登場人物たちと目標物が上手く配置されています。スタート・障害・ゴールの位置関係が、見ていれば何となく把握できるようになっている。

 

飛行機が飛んでいるシーンに集中するために、ノイズがとことん排除されています。

 

音楽に関しても、例外ではありません。テレビシリーズでは空戦シーンに合わせてBGMが流れていたのですが、今回の劇場版では無くなっています。その分、飛行機のプロペラや爆発、風邪などの効果音に耳が集中し、劇場版という環境だからこその緊張感と臨場感の演出に一役買っていました。

 

 

 

 今回の劇場版は、「空戦のシーンを徹底的に味わって欲しい。キャラクターたちのやりとりや、物語を見たい人はテレビシリーズで!」と割り切り、空戦が楽しめる土台作り、その上で描かれる空戦を面白くすることに徹底していた作品でした。格好良い飛行機が格好良く飛んでいる映像を楽しみたい人にお勧めの一作です。最高でした。

 

 


映画『荒野のコトブキ飛行隊 完全版』本予告 2020年9月11日公開決定!