モリオの不定期なblog

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刑事(デカ)である征陸智己が、須郷徹平に残した物とは?<PSYCHO-PASS サイコパス:SS Case.2・感想・ネタバレ>

 3ヶ月連続で公開している『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System』。早くも二作目が公開されました。一作目『Case.1 罪と罰』では、メインの登場人物である宜野座伸元と霜月美佳、両名の成長した姿と活躍が存分に描かれていました。対して本作『Case.2 First Guardian』では、テレビシリーズよりも前の時代が舞台。テレビシリーズ『1st Season』において、ベテランとして頼もしい姿を見せてくれた征陸智己と『2nd Season』にて元軍人として安定感のある活躍をしてくれた須郷徹平が本作ではメインで活躍します。

 

一作目と同様、公開初日から観てきました。前作の感想で言い忘れましたが、本シリーズの根幹であるシビュラシステムについて説明は無いなど、完全に新規の方は考慮されていません。テレビシリーズや劇場版(2014年)を鑑賞している事を前提とした作りで、そこで起こった出来事を知っているからこそ、楽しむ事ができる構成になっています。本作を含めた『Sinners of the System』から『PSYCHO-PASS』を知った方は、最低でもテレビシリーズ『1st Season』を鑑賞する事をお勧めします。

  

 

 

 

  (以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 

 

 まず『1st Season』の終盤において、征陸智己が息子である宜野座伸元を庇い命を落としています。今から約100年も後の世界で、自らを刑事(デカ)と名乗り、事件の事をヤマと言う。彼は言葉だけでなくシビュラシステム導入前からの刑事としての在り方、姿勢を見せてきました。

 

今ですら少し古く感じる言葉を使いですが、しかしだからこそと言うべきでしょうか。システムに傾倒しない在り方、そして何よりシステムに管理された社会でも彼から放たれている「自分たちの時代への近さ」に親近感や安心感がありました。

 

そんな彼が、再び登場する。それだけでも自分の心を揺さぶるるには十分で、一度目の鑑賞では彼が登場しただけで、涙腺を刺激されました。二度目の鑑賞でようやく落ち着いて観れました。(泣いてないとは言っていません。)

 

「PSYCHO-PASS サイコパス」Complete Original Soundtrack 2

 

それほど大きな存在である征陸智己が、「互いに刑事として」会う事の無かった須郷徹平に残した物は何なのか。被害者である大友逸樹と、被害者であり犯人でもある妻の大友燐が起こす事件を通じて描かれています。

 

 

 

 物語は厚生省公安局刑事課一係の執行官である須郷徹平が外務省から出向してきた監視官補佐官の花城フレデリカからスカウトされる所から始まります。

 

軍の行ったフットスタンプ作戦により大友逸樹が行方不明になりました。その数ヶ月後に、作戦に関係していた軍上層部の人間を狙った事件が発生。事件の容疑者として上がったのが行方不明になったはずの大友逸樹と彼の妻の大友燐、そして大友逸樹の部下として作戦に参加していた須郷鉄平。

 

事件の真相を明らかにして無実を晴らす為に、執行官である征陸智己と監視官の青柳璃彩と共に事件の真相を追っていきます。その過程で、「保険」というキーワードが出てきます。想定外の事態や裏切りが発生した時の備えとして、安全な場所に隠したり信頼できる人に預けておく物の事だと征陸智己が語ります。

 

しかし、その保険は何の為の保険なのか?自分?同僚?部下?家族?それは用意する人によって異なります。

 

しかし重要なのは、「その保険がどのように使われるのか?」という事。大友逸樹は結局、作戦時に死亡していました。それだけではなく、フットスタンプ作戦において大友逸樹の率いていた部隊は捨て駒であった事が明らかになります。その事実を知っていた大友燐は、夫の残した「保険」を、作戦に関わった軍上層部の人間に対する復讐の為に利用しました。

 

果たしてそれは正しかったのか?死んだ大友逸樹の望んだ事だったのか?彼が最後に残した「強く生きろ。」という言葉に込められた真意に沿ったものだったのか?

 

大友逸樹、本人が既に亡くなってしまった以上、それは知り得ません。しかし、復讐を考えてしまう人の色相が果たしてクリアなのでしょうか?妻の色相がクリアである事を自慢げに語っていた大友逸樹の事を思うと、今回の復讐を肯定する事はできません。

 

 

 

 色相がクリアであった大友夫婦とは対照的に、事件を捜査している征陸智己は潜在犯認定されています。潜在犯に認定された事による差別を受けた結果なのか、妻はユーストレス欠乏症を患っている事が本作で初めて明かされます。そんな妻と会う事も、潜在犯という立場上自由には叶わず、事件の捜査のついでに会いに行くのが関の山です。

 

久しぶりにあった妻とのやり取りの中で、息子である宜野座伸元に残りの人生をかけて何をしてあげられるのかについて触れています。「ただ、伸元が幸せになりますように…」と自身の思いを吐露しています。『1st Season』で有言実行した事を知っているからこそ、この台詞に涙を誘われます。

 

家族に対する思いを持ちながらも、同時に刑事として在る事を決して辞めません。どれだけ軍部からの横槍が入ろうとも怯む事なく「俺のヤマだ!」と強い意志で捜査を続けます。そんな姿を監視官である青柳璃彩は「本当の人間の強さ。」と尊敬の念を示します。

 

潜在犯か否か、執行官か監視官か、それらの枠を超えて感じさせる征陸さんの強さは現実にも通じる普遍的なものであるから、潜在犯であり執行官という不自由な立場でありながら「本当の人間の強さ。」を見せてくれる事に、一つのカタルシスを感じます。同時に、大友逸樹の言っていた「強く生きろ。」という事はこういう事なのでは、そう思うのです。

 

 

 

 フットスタンプ作戦の真実が明らかになり、自らが投下した物が大友逸樹と同じ部隊の仲間はおろか、大勢の命を奪うガスだった事実に直面します。追い討ちをかけるように、大友燐の復讐は失敗に終わり命を落としてしまいます。

 

落ち込む彼に対して征陸さんは、もし潜在犯になったら執行官になる事を勧めます。

 

「正義や信念を感じられる瞬間がある。一度それを味わったら、病み付きになる。」

 

結局、犯罪係数が改善しなかった須郷さんは、刑事課一係の執行官になる道を選びます。そして現在、潜在犯としての枷を無くすと保証されたスカウトを断ります。

 

「自分は、この仕事に正義と信念を感じています。」

 

どこかステレオタイプにも感じるが、人として大事なものを感じさせてくれる征陸さんの刑事(デカ)としての在り方が、息子にだけでなく須郷さんの心にも通じていた。この台詞を聞いた時、涙を禁じえませんでした。

 

 

 

 シビュラシステムによって形作られた社会の不条理を感じてきたからこそ、それと折り合いをつけて、その中で自分の信念を貫き通す登場人物たちの姿が、観ている側の胸を打ちます。

 

その中でも最も真っ直ぐで力強いと感じさせる征陸さんの刑事(デカ)の在り方が受け継がれています。それが正しいのかは分かりません。しかし、大友燐のように復讐をするに至ってしまう事に比べれば、正義や信念を感じられる在り方が正しいと思います、いや思いたい。それに、何より嬉しかった。「とっつぁん(征陸さん)、あなたの刑事(デカ)魂は息子や後輩にちゃんと受け継がれているよ…」と。

 

mori2-motoa.hatenablog.com

 

 

 

 『Sinners of the System』で描こうとしている事の一つは「1st Seasonと2nd Seasonの登場人物を繋ぐ事」だと思っています。これまで、『1st Season』と『2nd Season』のどちらか片方にしか登場してないキャラクター同士、どこか切り離されているような印象を持っていました。そんな中、『Case.1』で霜月美佳の事件解決に取り組む姿から、真に公安一係の仲間になった事を感じられたように、『Case.2』で須郷さんが『1st Season』のみに登場していた征陸さんの刑事(デカ)としての精神を引き継いでる事が感じられました。

 

テレビシリーズの『1st Season』と『2nd Season』を結びつけてきた『Case.1』と『Case.2』。最後の話である『Case.3 恩讐の彼方に__』では、テレビシリーズ『1st Season』で日本を去った狡噛慎也が登場します。シビュラシステムの外の世界に出た彼は、どのような道を辿るのか?そして、『Sinnners of the System』と銘打たれた三部作は、どのような結末になるのか?非常に楽しみです。