アニメーションや特撮など、長い年月をかけて積み上げられてきた表現があります。それらがCGなどの新しい技術で生まれ変わる時に得られる新しい発見は、時に1つの作品の枠を超えた感動を観客に与えてくれます。
近年ではゴジラを始めとする『特撮』というジャンルで括られる作品が、そんな感動を与えてくれています。『パシフィック・リム』における日本の特撮作品とアニメの作風をハリウッド大作に落とし込んだかのような表現の一つ一つ、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』における着ぐるみや模型をそのままCGに置き換えたかのような映像の数々。
見た事ないけど見た事ある。
既視感と未視感の入り混じった表現が、味わった事のない体験を生み出してくれます。そういった作品に出会えた時には、表現やコンテンツの積み重ねが新たな表現に昇華される瞬間を目の当たりにしているようで、通常では味合うことの出来ない喜びを感じる事ができます。
しかし表現の積み重ねが有るが故に、新しい技術や方法が鑑賞した人たちの間で賛否を作り出す事もあります。最近では、『劇場版 ウルトラマンR/B(ルーブ) セレクト!絆のクリスタル』におけるフルCGで表現されたウルトラマンで賛否両論が起きた事が記憶に新しいです。
スーツアクターという人がスーツを着て精密な模型が数多く配置されたセットの中で演技をする中でフルCGで作り上げられた映像は新鮮です。ですが、実写による表現にこだわりを強く持っている人にとっては時に受け入れ難いものとして写ってしまう可能性も秘めています。
それは作品に対して感じているのと同じくらい強い愛着を持っているからだと考えられるし、それは決して悪いという事ではありません。それだけ愛着を生む表現は素晴らしいものであり、だからこそ今の時代にも残っている。
なにより作り手側もその表現の良さを知っている。フルCGのウルトラマンと着ぐるみの怪獣を並ばせたり、フルCGのウルトラマンに着ぐるみの質感を取り入れたりなど、新しい技術を取り入れながらも積み重ねてきた表現を忘れる事は決してありません。
新しい技術を取り入れる上で大事な事であり課題であると考えられる事は、今までの表現を今の技術に如何にして落とし込むのかという事。『劇場版 ウルトラマンR/B(ルーブ)』を含め新しい表現を取り入れた作品が自分にとって輝いて見える瞬間の一つは、前述したフルCGウルトラマンの質感や着ぐるみの怪獣との合成などの工夫や試行錯誤を感じられる瞬間だと思っています。
新しい技術を取り入れる上で、試行錯誤や努力ひいては制作者たちの熱意を映像から感じられるかどうかという事が、作品の評価に大きく左右するのではないかと思います。
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そんな特撮と同様、観客に表現へ愛着を持たせているのが日本のアニメーションです。ここ7~8年で、セルルック3DCGと呼ばれる手法を用いた作品が増加してきました。セルルック3DCGを簡単に説明すると、日本の手書きアニメーションのような質感の3DCGです。様々なセルルック3DCGの作品が作り出される中でよく聞いたのが、
手書きの方が良かった。
という感想。
これまでの日本アニメを支えてきた数多くのアニメーターたちによる職人芸、それらはアニメファンの心を掴んできました。それは「板野サーカス」や「オーバリズム」などといった言葉を生むといった、個々のアニメーターの特徴に対して愛着が持たれるという現象が発生するほど。
だからこそ、そこにセルルック3DCGという新しい技術と表現が入り込む事が非常に困難だったのではないかと思います。ここ7〜8年は、セルルック3DCGによる日本アニメーションという分野への挑戦の日々だったように感じています。
3DCGによる日本アニメーションの表現を意識した様々な作品が制作されてきました。『蒼き鋼のアルペジオ』『シドニアの騎士』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『BLAME!』『宝石の国』『GODZILLA』、様々な作品で様々なアプローチの表現が生まれてきました。
そんな発展を目の当たりにし技術と表現のの進化を感じる中で『プロメア』を鑑賞。セルルック3DCGと手描きアニメーションの融合、それを実現させる制作陣(製作陣)の圧倒的な熱量に感動した約2時間の体験になりました。
映像から感じる熱さ
本作を形作る音楽と役者の演技、そして何より映像自体から熱意を感じられた事が良かったと思います。何故映像から熱意を感じたのか、それは前述した手描きと3DCGの融合です。セルルックの質感を追求した3DCGは、特有の立体感がありながらも日本の手書きのアニメーションを見ているかのような感覚を覚えます。それだけでなく、手描きによるアニメーションもセルルック3DCGの質感を意識した表現になっていました。
両者が互いに表現を近付ける為の試行錯誤を行った結果、これ程の熱量を感じさせる映像に仕上がったのではないかと考えられます。
セルルック3DCG
日本アニメーションにおいて、3DCGによる表現は10年前では限られていました。乗り物をはじめとする無機物に限定されており、手描きによるアニメーションと3DCGによるアニメーションを使い分けるというよりは、3DCGは補助的な仕様に留まっている印象でした。
しかしここ10年で、そういった区別を超えやようと試みている作品・制作会社が増えてきました。例えば本作で3DCGを担当した株式会社サンジゲンは、『009 RE:CYBORG』や『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』、『ブラック★ロックシューター』、で、セルルック3DCGを主体としたアニメーション表現を追求してきました。
Kenji Kamiyama's Film "009 RE:CYBORG" Trailer (International Version)
オレンジが制作した『宝石の国』では、宝石で出来ている髪が反射する光という、写実寄りな表現を取り入れながらもセルルックの表現と組み合わせる。CGの長所を活かしながらセルルックアニメの表現を追求されていました。
中には、他社の追随を許さないほどの映像のゴージャスさを持ちながらセルルックによるキャラクター表現を取り入れているポリゴン・ピクチュアズのような会社もあります。
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更に『楽園追放』のグラフィニカでは、手描きアニメーションにおいてファンの心を掴んできた「板野サーカス」の表現を感じさせる映像がありました。
【楽園追放-Expelled from Paradise-】配信告知PV
互いの表現に近づける事
様々な形の3DCGの使い方がある中で共通している点は、日本の手描きアニメーションが積み上げてきた物を3DCGを用いて表現しようしている事です。そんなセルルックの3DCGの進化のある種の一つの到達点である作品が本作『プロメア』であると言えます。
本作のアニメーションにおいて特筆すべき点は、手書きのアニメーションと3DCGアニメーションの双方が、互いの表現に近づけた事です。3DCGは前述した通り、サンジゲンがここ10年間で手描きのようなルックの表現を追求する中で蓄積してきた技術を用いて手描きの表現に近づけています。それだけではなく、手書きのアニメーションの方もセルルック3DCG特有の淡い色合いにする事で3DCG側に表現を寄せています。
それぞれの表現の難しさ、組み合わせる事の意義
これまで長々と書いてきましたが、つまり何を伝えたいのかと言うと、本作はここ数年で追及されてきた「セルルック3DCG 」という表現技術における自分の観たかったもの、その一つの答えが本作で観る事ができたという事です。
そもそも何故セルルック3DCGが魅力的に映るのか、その理由は日本の手描きアニメーション特有のメリハリのある動きと3DCG特有の自由度の高いカメラワークを両立している事にあります。
手描きアニメーションは絵特有の立体的な嘘とメリハリのある動作を可能とします。しかし立体的な嘘をついてるが故に、立体的なカメラワークや動作の表現が困難である。そもそも手描きの絵を何千何万と描く必要がある中で、立体的なカメラワークの表現は製作上もハードルが高い事が伺える。
対して3DCGは立体的に精巧であるが故に嘘をつく事が難しい。立体的なカメラワークが可能ではありますが、絵特有の嘘とメリハリのある動作はハードルが高い。
どちらも単独で時間をかければ出来なくもないだろうが、長い期間を要するため現実的ではありません。
だからこそ、手描きアニメーションと3DCGのルックを似せる事の最大の意義があると思います。
二つの技術で一つの表現、観たかった映像表現
3DCGなのに手描きアニメーションを見ているようなメリハリのある動きを感じ、その逆に手描きアニメーションのようなのに枷から外れたような自由なカメラワークとキャラクター達のアクション。互いが互いの視覚的感覚を共有する事で、それぞれが単独では持つ事が困難であった視覚的体感を観客に与える事に成功していると言えます。
手描きアニメーションなのに3DCGのように、3DCGなのに手描きアニメーションのように。
この二つを実現する事で映画全体の映像に対する印象として立体的でありながらメリハリのある気持ち良い動きを実現する事が出来たのだと思います。
それこそが、約10年前にセルルック3DCGという表現に初めて出会った私がずっと見たいと思い続けてきた観たかった映像表現なのだと思います。
映画『プロメア』冒頭アクションシーン 制作:TRIGGER 5月24日〈金〉全国公開
技術の融合
鑑賞した後に思い浮かべた作品が『スパイダーマン スパイダーバース』です。この作品も、融合が一つのキーワードであり、白黒であったりなどと異なる質感のキャラクターが共存していました。『スパイダーバース』が表現の融合であるとするなら、『プロメア』は技術の融合という印象です。それを観る事が出来たので、とにかく嬉しかったです。
勿論、手描きアニメーションと3DCGを組み合わせる事が最善という事ではありません。今回は組み合わせるという手法によって、自分の観たいと思っていた映像表現の一つを本作で観る事が叶ったという話です。
また、技術の融合といっても組み合わせる事だけが方法ではありません。前述した『楽園追放』では、モーションアドバイザーという形で板野一郎さんが携わっており手描きアニメーションの表現を直接使わずして3DCGに取り入れています。
他にも今年秋公開予定の『HUMAN LOST 人間失格』では『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』で監督を務めたアニメーターの木崎文智さんが監督を勤めています。
「HUMAN LOST 人間失格」Official Teaser Trailer② Theme Song:m-flo「HUMAN LOST feat. J. Balvin」
(今年秋公開の新作、映像面への期待値がカンストしてる一作。)
『プロメア』の感想を書いているはずなのに作品にあまり触れられていないような気もしますが、かつてない興奮と感動を与えてくれた要因にセルルック3DCGという文脈がある事は間違いありません。セルルック3DCG、日本のアニメーションの新たな可能性を観せてくれた本作は記憶に残る一作でした。