モリオの不定期なblog

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「全ての日本人に問う。」その言葉に偽りなし。日本企業の風土を描いた秀作<七つの会議・感想・ネタバレ>

 池井戸潤さんの手がける様々な小説を読んだ事はなく、テレビで放送されている(主にTBSの)ドラマをいくつか鑑賞した事があります。少し過剰にも思える役者陣の演技、それを目一杯見せると言わんばかりの顔のドアップ、加えて登場人物の善悪の明確な立ち位置。この3点が、私の池井戸潤さんの小説を原作とした作品に対する印象です。「ドラマの作風=池井戸潤さんの小説の作風」のように思っていましたし、同じような作風のドラマに対して正直飽きを感じていました。

 

 

 

 ではなぜ今回、本作『七つの会議』を鑑賞してみようと思ったのか?それは他でもない、狂言師野村萬斎」さんの存在です。狂言のファンであったりする訳ではないのですが、『のぼうの城』という作品を鑑賞した際に感じた野村萬斎さんの独特な空気感に魅了されました。そんな野村萬斎さんが今回は現代劇に出演、しかもサラリーマンを演じられる。是非にも!という事で公開初日に早速鑑賞してきました。

 

本作は俳優の方々の名演技を堪能しながらも、日本の働き方や会社に対する考え方の負の側面を浮き彫りにさせる秀作でした。

  

映画「七つの会議」オリジナル・サウンドトラック

 

 

 本作でやはり印象に残るのは、役者陣のドアップの表情を中心とする演技のぶつけ合い。『下町ロケット』『陸王』『半沢直樹』でも見られた表情のアップで見せる手法は本作でも健在。しかし本作は映画、テレビよりも大きなスクリーンで繰り出されます。その圧はテレビとは比べ物になりません。

 

 

俳優の毛穴が確認できるほどのアップの映像。細かい表情の動きの一つ一つがしっかりと確認できます。野村萬斎さんの眉毛と同じくらい動く頭皮、香川照之さんのこぼれ落ちてしまいそうな目、及川光博さんの今にも吐いてしまいそうな表情、鹿賀丈史さんの子犬のように震える手、俳優の方々の圧倒的な演技を滝を浴びるが如く楽しむ事が出来ます。

 

顔をアップで撮影するのは、そういった俳優の方々の一挙手一投のスペクタクル化だと思います。アクション映画やSF映画における戦闘シーン、それと同じものとして楽しめたのではないかと思います。それだけ迫力のある演技、演出であったと思います。

 

 

 

 その他に楽しめた点は、善悪を明確にしない作品の構図にあります。前述した善人と悪人が明確にしている、これまでのTBSのドラマ作品に飽きを感じていました。しかし本作は、そのような構造ではなく善悪の在り処を観客に投げかける構成の作品であった為、非常に楽しむ事が出来ました。

 

 


映画『七つの会議』予告2

 

(以下、映画本編のネタバレがあるのでご注意ください。)

 

 

 

 

 芋づる式に明らかになる真実。元をたどれば不正を最初に指示した社長の橋爪功さん演じる宮野和広社長と鹿賀丈史さん演じる梨田元就が悪いと言えます。しかし本作において描かれる問題は不正そのものではありません。その不正を、上司の命令を、部下が断れない日本企業の風習です。毎月のノルマを達成しろという圧力をかけられ、取り返しのつかない事をしてしまった八角民夫と北川誠。上司に指示されるままに不正を行ってしまった坂戸宣彦。

 

様々な働き方が出てきた現代、そんな中でも一つの企業で定年まで働く事と安定した雇用を無条件に志向する価値観が未だに日本では色濃く残っています。そういった価値観が一つの会社内において出世争いを起こし、社員が出世争いに勝ち残る為に不正に手を出してしまう。本作で発生する問題は、そういった価値観が起因していると考えられます。

 

また本作で重要な点は、そういった価値観のもと働き続けた人間こそ会社を離れ、異なる価値観のもと働き続けた八角民夫が会社に残ったという事です。

 

 

 

 働くということの意味や意義は人それぞれだと思います。社会に貢献するため、特定の企業に貢献するため、自分の生活を充実させるため、人によって重視する物は変わっています。ですが、そんな中でも超えてはいけない一線があります。また同時に、その一線を超えてしまう可能性も十二分にあります。

 

そんな中、もし自分が不正を見つけてしまったら?もしくは、不正をするよう上司に指示をされてしまったら?日本で暮らし、日本の会社で働く以上、決して目をそらせない事です。

 

本作では、ネジ耐久の不正による問題が飛行機や電車と人の命に関わる領域にまで拡大します。「自分の評価の為、会社を守る為、社員を路頭に迷わせない為。」と、大義名分を掲げた結果、前述した出世争いや断れない上司の命令、それらの積み重ねが結果として取り返しのない結果を生み出してしまいました。

 

だからこそ、そんな考え方から起因する企業の在り方に翻弄されてきた八角民夫と北川誠が会社に一矢報いるラストにカタルシスが生まれるのです。証拠も持っていかれ闇に葬られんとする時、北川が椅子の下のネジを見つけ、私は「ネジ〜〜〜〜!!!」と思わず心の中でガッツポーズをしてしまいました。

 

 

 

 しかし、こういった価値観が日本企業を、ひいては日本を支えてきた事もまた事実。本作のラストでも語られますが、そういった価値観にも理があるからこそ浸透してきたと考えられます。

 

日本において働き方が見直され、「働く」という事に対する見方考え方が少しずつ変化しています。そんな今だからこそ、この作品を今の時代の価値観に当てはめて、これまでのやり方の何が悪いのか?何が良いのか?それを考え、取捨選択をしなければいけません。特定の企業、組織の特定の仕組みに限った話ではないし、特定の仕組みを正して解決なんて事はありません。日本人の価値観の話なのだから決して人ごとではなく、一人一人が考えて意識しなければいけません。そう考えさせられる作品でした。

 

 

 

 会社の闇を暴く痛快なエンターテインメントで魅了しながらも、日本人が目を逸らす事の出来ない問題を浮き彫りにし会社員としての在り方を我々に問いかける一作でした。